法定刑
殺人の罪を犯した場合,死刑または無期もしくは5年以上20年以下の懲役に処せられ,起訴されると裁判員裁判になります(刑法199条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項1号)。
なお,殺人行為に時効はありません(刑事訴訟法250条1項柱書)。
弁護方針
逮捕等回避
最も重大な犯罪である殺人の場合,たとえ未遂であっても,逮捕・報道や勾留を回避することは極めて困難です。
また,保釈も,最後まで認められないことがほとんどです(お知らせ「刑事事件の報道や勤務先・学校への露呈の回避」「勾留と保釈」も併せてご覧ください)。
認め事件
殺人の場合,弁護士が行為の態様・結果・動機といった基本的な部分をきちんとチェックし,当該殺人行為が同種事案の中で特に悪質とまではいえないと主張できるような要素を,漏れなく拾い上げる必要があります。
もっとも,少年が長年の苛烈な暴力に耐えかねて衝動的に親を殺してしまった,などといった極限的なケースでもない限り,長期の実刑はまず避けられないというのが実情です(お知らせ「行為責任主義」も併せてご覧ください)。
他に,弁護士を介した謝罪及び示談,贖罪寄付,自首,家族など監督者の存在のアピールなども必要になってきます。
示談や自首の効果が比較的大きいといえますが,それも数年の減刑が限度で,執行猶予まで持ち込むことは極めて困難といわざるを得ません(お知らせ「示談」「情状弁護」も併せてご覧ください)。
たとえ長期の実刑は避けられないとしても,ご本人はもちろん,ご家族や弁護士といった周囲の人間が,事件の重さから逃げずに向き合い,悩み苦しみ,それを裁判員・裁判官にも伝えることが最も重要です。
否認事件
殺人の場合,捜査段階では,弁護士が頻繁に接見するなどして取調べ等の捜査状況を把握すると共に,終局処分の見通しを早期に把握することが必要不可欠です。
弁護士の見極め次第では,嫌疑不十分を狙うことも十分にあり得るところです。
被疑者自身は,黙秘権行使を原則とし,あえて積極的に供述していくときは,弁護士と相談しながら慎重に行っていく必要があります。
裁判段階では,まず弁護士が検察官証拠を吟味し,その上で網羅的な証拠開示請求を行って開示証拠を精査し,弁護士と被告人が綿密に協議しながら,検察官立証の要を崩す方策を見つけ出す必要があります。
要となる検察官証拠に対する証拠意見はすべて不同意として,証人の証言の不合理な部分を反対尋問で徹底的に弾劾したり,被告人に有利な証拠を積極的に収集・提出したり,被告人は無罪であることを弁論で強力かつ説得的に論じたりするなど,事案に応じ様々な手を打っていくことになります。
例えば,そもそも犯行現場に居合わせていないなどとして犯人性を争ったり,正当防衛や過剰防衛といった違法性阻却・減少事由を主張したり,心神喪失や心神耗弱といった責任阻却・減少事由を主張したり,殺意を争ったりすることが考えられます。
関連条文
刑法199条
人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条
1 地方裁判所は,次に掲げる事件については,次条又は第3条の2の決定があった場合を除き,この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は,裁判所法第26条の規定にかかわらず,裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
刑事訴訟法250条
1 時効は,人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については,次に掲げる期間を経過することによって完成する。
刑法11条
1 死刑は,刑事施設内において,絞首して執行する。
刑法12条
1 懲役は,無期及び有期とし,有期懲役は,1月以上20年以下とする。