法定刑
ラッシュ等の危険ドラッグを所持するなどした場合,1月以上3年以下の懲役もしくは1万円以上300万円以下の罰金またはその併科に,営利目的で行った場合,1月以上5年以下の懲役もしくは1万円以上500万円以下の罰金またはその併科に,それぞれ処せられます(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律84条26号,76条の4,83条の9)。
もっとも,輸出入については,関税法違反が別途問題になり,1月以上10年以下の懲役もしくは1万円以上3,000万円以下の罰金またはその併科に処せられますので,法定刑が重い方で考えることになります(関税法109条1項,69条の11第1項1の2号)。
なお,所持等行為から3年,営利目的で行った場合は5年,輸出入行為から7年で時効になります(刑事訴訟法250条2項4,5,6号)。
また,俗に危険ドラッグと呼ばれている違法薬物の中にも,麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)の規制対象になっているものがあり,この場合,麻薬と同様の刑に処せられます(罪名別解説「麻薬」をご覧ください)。
弁護方針
逮捕等回避
危険ドラッグの場合,覚醒剤や麻薬とは異なり,逮捕・勾留を回避できる可能性があります。
早期に弁護士に相談し,自首も検討しつつ,逮捕・勾留回避活動をしっかり行い,逮捕・報道回避,釈放獲得を目指す必要があります(お知らせ「刑事事件の報道や勤務先・学校への露呈の回避」も併せてご覧ください)。
仮に勾留され,起訴されてしまったとしても,弁護士が適切な内容の保釈請求をすれば,保釈が認められる可能性は十分にあります。
もっとも,最近の同種前科があるなど悪質な事案の場合,保釈が認められないこともあります。
このような場合,裁判がある程度進んだ時点で,再度保釈にチャレンジすることになります(お知らせ「勾留と保釈」も併せてご覧ください)。
認め事件
危険ドラッグの場合,贖罪寄付,自首,依存症治療,家族など監督者の存在のアピールなどが必要になってきます。
危険ドラッグの場合,国によっては合法なこともあり,違法性の意識が薄い方も少なくありませんので,まずはその点を改め,罪を犯したことを自覚することが出発点になります。
また,薬物関係者との接触を一切断つ必要がありますので,実家に戻るなどして家族等の監督に服しつつ,携帯を一旦解約するなどの措置を取る必要があります。
ご本人やご家族の更生への決意はもちろん,そのための環境がどれほどの具体策をもって整備されているかが,裁判における最も重要なポイントになります(お知らせ「情状弁護」も併せてご覧ください)。
また,弁護士が行為の態様・結果・動機といった基本的な部分もきちんとチェックし,当該危険ドラッグ行為が同種事案の中で特に悪質とまではいえないと主張できるような要素を,漏れなく拾い上げる必要もあります(お知らせ「行為責任主義」も併せてご覧ください)。
なお,所持や使用等の単純な事案で,かつ初犯である場合,検察官が即決裁判手続を選択することもあります。
即決手続が選択された場合,原則起訴から2週間以内に裁判が行われ,そこで判決まで下されます。
即決手続における判決には,執行猶予を付すものとされており,被告人にとってメリットが大きい手続ですが,検察官がこの手続を選択するには,弁護士の同意も必要ですので,弁護士の方から即決手続を選択するよう積極的に働きかけていくことが重要です。
否認事件
危険ドラッグの場合,捜査段階では,頻繁に接見するなどして取調べ等の捜査状況を把握すると共に,終局処分の見通しを早期に把握することが必要不可欠です。
所持や使用などの場合,現に危険ドラッグが押収されていたり,尿から危険ドラッグの成分が検出されていたりして,犯罪成立は明らかと見られることが多いので,危険ドラッグは同居人のものである,知らないうちに投与されてしまった,などといった言い分が認められるかどうかは,客観的状況を踏まえて慎重に判断する必要があります。
一方,譲渡しや譲受けなどの場合,危険ドラッグの現物が存在せず,薬物関係者の供述しか存在しないことも少なくありませんので,嫌疑不十分を主張する余地があるといえます。
被疑者自身は,黙秘権行使を原則とし,あえて積極的に供述していくときは,弁護士と相談しながら慎重に行っていく必要があります。
裁判段階では,まず弁護士が検察官証拠を吟味し,その上で網羅的な証拠開示請求を行って開示証拠を精査し,弁護士と被告人が綿密に協議しながら,検察官立証の要を崩す方策を見つけ出す必要があります。
要となる検察官証拠に対する証拠意見はすべて不同意として,証人の証言の不合理な部分を反対尋問で徹底的に弾劾したり,被告人に有利な証拠を積極的に収集・提出したり,被告人は無罪であることを弁論で強力かつ説得的に論じたりするなど,事案に応じ様々な手を打っていくことになります。
関連条文
医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律76条の4
指定薬物は,疾病の診断,治療又は予防の用途及び人の身体に対する危害の発生を伴うおそれがない用途として厚生労働省令で定めるもの(以下この条及び次条において「医療等の用途」という。)以外の用途に供するために製造し,輸入し,販売し,授与し,所持し,購入し,若しくは譲り受け,又は医療等の用途以外の用途に使用してはならない。
医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律83条の9
第76条の4の規定に違反して,業として,指定薬物を製造し,輸入し,販売し,若しくは授与した者又は指定薬物を所持した者(販売又は授与の目的で貯蔵し,又は陳列した者に限る。)は,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律84条
次の各号のいずれかに該当する者は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
二十六 第76条の4の規定に違反した者(前条に該当する者を除く。)
関税法69条の11
1 次に掲げる貨物は,輸入してはならない。
一の二 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条第15項(定義)に規定する指定薬物(同法第76条の4(製造等の禁止)に規定する医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
関税法109条
1 第69条の11第1項第1号から第6号まで(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物を輸入した者は,10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
刑事訴訟法250条
2 時効は,人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については,次に掲げる期間を経過することによって完成する。
四 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
五 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年
六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
刑法12条
1 懲役は,無期及び有期とし,有期懲役は,1月以上20年以下とする。
刑法15条
罰金は,1万円以上とする。ただし,これを減軽する場合においては,1万円未満に下げることができる。