法定刑
有印公文書偽造・同行使の罪を犯した場合,1年以上10年以下の懲役に,無印公文書偽造・同行使の罪を犯した場合,1月以上3年以下の懲役または1万円以上20万円以下の罰金に,それぞれ処せられます(刑法155,158条)。
また,公正証書原本不実記載の罪を犯した場合,1月以上5年以下の懲役または1万円以上50万円以下の罰金に処せられます(刑法157条1項)。
さらに,有印私文書偽造・同行使の罪を犯した場合,3月以上5年以下の懲役に,無印私文書偽造・同行使の罪を犯した場合,1月以上1年以下の懲役または1万円以上10万円以下の罰金に,それぞれ処せられます(刑法159,161条)。
最後に,私電磁的記録不正作出・同供用の罪を犯した場合,1月以上5年以下の懲役または1万円以上50万円以下の罰金に,公電磁的記録不正作出・同供用の罪を犯した場合,1月以上10年以下の懲役または1万円以上100万円以下の罰金に,それぞれ処せられます(刑法161条の2)。
なお,有印公文書偽造・同行使行為または公電磁的記録不正作出・同供用行為から7年,無印公文書偽造・同行使行為または無印私文書偽造・同行使行為から3年,公正証書原本不実記載行為または有印私文書偽造・同行使行為または私電磁的記録不正作出・同供用行為から5年で時効になります(刑事訴訟法250条2項4,5,6号)。
弁護方針
詐欺を伴う場合につきましては,以下の解説のほか,罪名別解説「詐欺」も併せてご覧ください。
逮捕等回避
文書偽造・電磁的記録不正作出だけで逮捕・勾留されるケースは多くありませんが,実際は詐欺を伴うことが多く,被害額によっては,逮捕・勾留回避が難しくなってきます。
早期に弁護士に相談し,自首も検討しつつ,逮捕・勾留回避活動をしっかり行い,逮捕・報道回避,釈放獲得を目指す必要があります(お知らせ「刑事事件の報道や勤務先・学校への露呈の回避」も併せてご覧ください)。
仮に勾留され,起訴されてしまったとしても,弁護士が適切な内容の保釈請求をすれば,保釈が認められる可能性は十分にあります。
示談が成立すれば,その可能性はさらに高まります。
もっとも,極めて悪質な事案の場合,保釈が認められないこともあります。
このような場合,裁判がある程度進んだ時点で,再度保釈にチャレンジすることになります(お知らせ「勾留と保釈」も併せてご覧ください)。
認め事件
文書偽造・電磁的記録不正作出の場合,弁護士を介して被害者に謝罪した上,示談成立を目指すことが活動の中心になります(弁護士費用プラン①参照)。
もっとも,公文書の場合,被害者は公的機関ですので,示談は困難といわざるを得ません。
一方,私文書の場合,示談できるかどうかは被害者次第ですが,個人より企業の方が,犯罪に対する企業としての姿勢が問題になってくるため,示談交渉が難航することが多いといえます(お知らせ「示談」「情状弁護」も併せてご覧ください)。
また,被害者が示談を完全に拒否している場合,弁護士を介して贖罪寄付を行うこともあります。
もっとも,後に被害者が翻意し,寄付金に加えて示談金も用意しなければならないリスクもありますので,贖罪寄付を行うかどうかは,慎重に判断しなければなりません。
他に,自首,家族など監督者の存在のアピールなども必要になってきます。
また,弁護士が行為の態様・結果・動機といった基本的な部分もきちんとチェックし,当該文書偽造・電磁的記録不正作出行為が同種事案の中で特に悪質とまではいえないと主張できるような要素を,漏れなく拾い上げる必要もあります(お知らせ「行為責任主義」も併せてご覧ください)。
否認事件
文書偽造・電磁的記録不正作出の場合,捜査段階では,弁護士が頻繁に接見するなどして取調べ等の捜査状況を把握すると共に,終局処分の見通しを早期に把握することが必要不可欠です。
弁護士の見極め次第では,嫌疑不十分を狙うことも十分にあり得るところです。
被疑者自身は,黙秘権行使を原則とし,あえて積極的に供述していくときは,弁護士と相談しながら慎重に行っていく必要があります。
裁判段階では,まず弁護士が検察官証拠を吟味し,その上で網羅的な証拠開示請求を行って開示証拠を精査し,弁護士と被告人が綿密に協議しながら,検察官立証の要を崩す方策を見つけ出す必要があります。
要となる検察官証拠に対する証拠意見はすべて不同意として,証人の証言の不合理な部分を反対尋問で徹底的に弾劾したり,被告人に有利な証拠を積極的に収集・提出したり,被告人は無罪であることを弁論で強力かつ説得的に論じたりするなど,事案に応じ様々な手を打っていくことになります。
関連条文
刑法155条
1 行使の目的で,公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し,又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は,1年以上10年以下の懲役に処する。
2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も,前項と同様とする。
3 前2項に規定するもののほか,公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し,又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は,3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
刑法157条
1 公務員に対し虚偽の申立てをして,登記簿,戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ,又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法158条
1 第154条から前条までの文書若しくは図画を行使し,又は前条第1項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は,その文書若しくは図画を偽造し,若しくは変造し,虚偽の文書若しくは図画を作成し,又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は,罰する。
刑法159条
1 行使の目的で,他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し,又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は,3月以上5年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利,義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も,前項と同様とする。
3 前2項に規定するもののほか,権利,義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し,又は変造した者は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法161条
1 前2条の文書又は図画を行使した者は,その文書若しくは図画を偽造し,若しくは変造し,又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は,罰する。
刑法161条の2
1 人の事務処理を誤らせる目的で,その事務処理の用に供する権利,義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは,10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3 不正に作られた権利,義務又は事実証明に関する電磁的記録を,第1項の目的で,人の事務処理の用に供した者は,その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
4 前項の罪の未遂は,罰する。
刑事訴訟法250条
2 時効は,人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については,次に掲げる期間を経過することによって完成する。
四 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
五 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年
六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
刑法12条
1 懲役は,無期及び有期とし,有期懲役は,1月以上20年以下とする。
刑法15条
罰金は,1万円以上とする。ただし,これを減軽する場合においては,1万円未満に下げることができる。