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刑罰に対する社会的制裁の優越

被疑者が逮捕されると,一部の例外を除き,逮捕事実が報道機関に一律に伝達されます。

そして,報道機関が価値ありと判断すれば報道され,半永久的にネット上などに残ることになります。

このような報道の影響は甚大で,職を失ったり,家族に見放されたり,といった社会的制裁が被疑者に科されることになります。

また,価値なしとして報道までは至らない場合でも,報道機関が,裏付け取材の過程で,勤務先や通学先に在籍確認をすることがあり,これによって退職や退学に追い込まれるケースもあります。

これに対し,刑罰はといえば,初犯の場合,多くのケースにおいて起訴猶予ないし略式罰金,やや重いケースでも執行猶予で,いきなり実刑というケースは全体のほんの一部です。

しかも,捜査や審理を尽くして初めて科されるものであるため,どうしても社会的制裁の後追いにならざるを得ません。

犯した罪の責任を取らせると共に,二度と罪を犯さないようにさせるという目的のため,刑罰は科されますが,それまでに社会的制裁によって被疑者の人生が破壊されている場合,例えばその後の略式罰金がどこまで意味を持ち得るのか,刑罰をはるかに凌ぐダメージを受け,自暴自棄にもなっているかもしれない被疑者に,刑罰に込められたメッセージが届き得るのか,疑問なしとしません。

逮捕のハードルは,一般の方々が思っているよりはるかに低く,その分,逮捕時点では冤罪の可能性も多分にありますが,その逮捕が容易に報道に繋がり,被疑者に社会的制裁が科される現状は,慎重な手続を経て初めて科される刑罰のあり方に比べると,あまりにもあっけなく人の人生を破壊するもので,かなり異様なものに感じられます。

万が一,悪意ある者が虚偽の被害を巧妙に訴えた場合,刑罰が科されるところまでは至らなくとも,逮捕まで持ち込みさえすれば,傷つけたい相手に十分なダメージを与えることができ,刑事司法から威厳を奪いかねない事態ともいえます。

情報技術の発達により,社会的制裁が一昔前よりはるかに強力になっていることを,刑事司法に携わる者も,報道機関も十分に意識し,刑罰と社会的制裁のバランスを踏まえた,報道ルールの再構築が必要であるように思われます。(末原)

 
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