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判例考察9(名古屋高判平27.4.16)

バーの従業員であった被告人X及びYが,客であった被害者に対し,代金支払いを巡るトラブルから,被告人の背部を蹴って階段の上から落下させて転倒させ,多数回にわたって被害者の頭部顔面や胸腹部等を殴り,蹴り付けるなどの暴行(以下,「第1暴行」という。)を加えた後,客であった被告人Zが,床に倒れている被害者の背部付近を1回踏み付け,背中を1回蹴る暴行(以下,「中間暴行」という。)を加えた上,被害者の頭部顔面を多数回にわたって蹴り付けるなどの暴行(以下,「第2暴行」という。)を加えた結果,被害者が急性硬膜下血腫等の傷害を負い,翌日,同血腫に基づく急性脳膨脹により死亡したが,傷害が上記第1及び2暴行のいずれによるものか不明という事案で,原判決が,同時傷害の特例の適用を否定し,両暴行の機会の同一性も否定して,X及びYに傷害罪,Zに傷害致死罪が成立するとしたのに対し,名古屋高裁は,「X及びYが共謀の上で行った第1暴行と,Zが行った第2暴行とは…,そのいずれもが被害者の急性硬膜下血腫の傷害を発生させることが可能なものであり,かつ,実際に発生した急性硬膜下血腫の傷害が上記両暴行のいずれによるものか不明であるということになるから,もし,両暴行に機会の同一性が認められるのであれば,取りあえず,死亡の結果の発生をひとまずおいて考えれば,同時傷害の特例に関する刑法207条が適用され,被告人3名全員が,両暴行のいずれか(あるいはその双方)と因果関係がある急性硬膜下血腫の発生について,共犯として処断されることになる」。そして,このように「被告人3名が急性硬膜下血腫の傷害の発生について共犯としての罪責を負うという前提で考える以上,この場合,被告人3名が共犯としての刑責を負うべき急性硬膜下血腫を原因として生じた被害者の死亡についてもまた,被告人3名は共犯としての刑責を負うことになると解すべきであって,結局,被告人3名は,上記死亡を内容とする傷害致死罪の共犯として処断されることになると解すべきである」。原判決の判断は,「実際に発生した傷害との因果関係について検討しないで,直ちに死亡との因果関係を問題にしている点で,暴行と傷害との因果関係が不明であることを要件とする刑法207条の規定内容に反すると考えられるし,このように解した場合,本件で,急性硬膜下血腫の傷害の発生について,結局は誰も責任を問われないことになる結果となることを看過したものであるといわざるを得ない」とし,原判決が暴行の機会の同一性を否定した点についても,「第1暴行と第2暴行との間に時間的場所的な近接性があることは,両暴行が同一の機会に行われたとうかがわせるに足りる重要な事情であると考えられ」,「原判決がいうほど『予期』を問題にすることが相当か否かが,そもそも疑問である」上,予期についての原判決の認定にも疑問があるとして,原判決を破棄し,事件を差し戻しました。

①同時傷害の特例の適用に際し,暴行と死因となった傷害との間の因果関係を問題とすべきか,それとも暴行と死亡との間の因果関係を直接問題とすべきか,②暴行の機会の同一性がどのような場合に認められるか,という各論点について参考になる判例であり,原判決との比較が重要といえます。

XやYの弁護士にとっては,特に考えなければならないことの多い事件であったと想像されます。(末原)

 
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