刑事事件において,最も注意しなければならないことの1つは,供述調書は取調官による作文に過ぎない,ということです。
取調官は,被疑者が話したことを,漏れなく調書に残してくれるわけではなく,逆に,話していないことを,取調官が,多分こうだろう,と考えたというだけで,調書に残してしまうこともあります。
取調官において,こいつは酷い奴だから悪く書いてしまえ,という意図が働くことも,この人は可哀想だから良く書いてあげよう,という意図が働くこともありますが,前者の方が圧倒的に多いことは,容易に想像できるかと思います。
もちろん,調書には,被疑者の署名押印が必要であり,それに先立って内容を読み聞かせているのだから,話したことと書かれていることのズレはそこで修正される,というのが建前です。
ですが,私の経験上,被疑者といえども,基本的に捜査機関を信頼している方が多く,調書の内容をろくに確認せず署名押印してしまうことは,まったく珍しいことではありません。
裁判になって調書が開示されて初めて,自分が話したことと違うことが書かれていることに気づくというのは,残念ながらよくあることです。
そこで,調書の内容を容易に撤回できるルールならいいのですが,裁判上,調書の存在は非常に重視されており,たとえ調書を証拠とすることに同意しなかったとしても,取調べのときはこう話していた,ということが結局明らかにされ,そのとおり認定されてしまうことも少なくありません。
ですから,被疑者としては,取調官が印刷してきた供述調書をよく読み,話したことと違うことが書かれていたり,逆に,書いておいてほしいことが抜け落ちていたりしたときは,遠慮なく取調官に訂正を申し立てることが非常に重要です。
また,いくら訂正を申し立てても納得できる内容にならないときは,署名押印自体を拒否することもやむを得ないでしょう。
一度署名押印すれば撤回はできないものと考え,署名押印すべきかどうかの判断がつかないときは,弁護士の助言を聞くまで,署名押印を見送ることが必要です。
なお,取調べが可視化された状況の下では,ただ話すだけで証拠になり得る以上,署名押印を見送るだけでは足りず,黙秘権を適切に行使することが必要になってきますが,この辺りは,後日また別に述べたいと思います。(末原)
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