法定刑
現住建造物等放火の罪を犯した場合,死刑または無期もしくは5年以上20年以下の懲役に処せられ,起訴されると裁判員裁判になります(刑法108条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項1号)。
また,非現住建造物等放火の罪を犯した場合,2年以上20年以下の懲役に,建造物等以外放火の罪を犯した場合,1年以上10年以下の懲役に,延焼の罪を犯した場合,3月以上10年以下の懲役に,失火の罪を犯した場合,1万円以上50万円以下の罰金に,それぞれ処せられます(刑法109~111,116条)。
なお,現住建造物等放火行為から25年,非現住建造物等放火行為から10年,建造物等以外放火行為または延焼行為からから7年,失火行為から3年で時効になります(刑事訴訟法250条2項1,3,4,6号)。
弁護方針
逮捕等回避
現住建造物等放火や非現住建造物等放火の場合,すぐに消火されて実害がほとんど出なかったような軽微な事案でもない限り,逮捕・勾留を回避することは極めて困難です。
一方,それ以外の場合,逮捕・勾留を回避することが可能なケースもあります。
早期に弁護士に相談し,自首も検討しつつ,逮捕・勾留回避活動をしっかり行い,逮捕・報道回避,釈放獲得を目指す必要があります(お知らせ「刑事事件の報道や勤務先・学校への露呈の回避」も併せてご覧ください)。
仮に勾留され,起訴されてしまったとしても,弁護士が適切な内容の保釈請求をすれば,保釈が認められる可能性は十分にあります。
示談が成立すれば,その可能性はさらに高まります。
もっとも,極めて悪質な事案の場合,保釈が認められないこともあります。
このような場合,裁判がある程度進んだ時点で,再度保釈にチャレンジすることになりますが,現住建造物等放火や非現住建造物等放火の場合,最後まで保釈が認められないことも覚悟しなければなりません(お知らせ「勾留と保釈」も併せてご覧ください)。
認め事件
放火の場合,弁護士を介して被害者に謝罪した上,示談成立を目指すことが活動の中心になります(弁護士費用プラン①参照)。
肉体的・精神的・財産的に被害を及ぼしたすべての人々に謝罪等する必要があり,広範囲の活動が求められる点が,放火における弁護の特徴といえます。
また,放火の特徴として,火が方々に燃え広がり,甚大な財産的被害をもたらすことが珍しくない点が挙げられます。
被害額が,数千万円から数億円に上ることもあり,そうなると,全額の被害弁償は極めて難しく,実刑を避けられない場合も少なくありません(お知らせ「示談」「情状弁護」も併せてご覧ください)。
また,被害者が示談を完全に拒否している場合,弁護士を介して贖罪寄付を行うこともあります。
もっとも,後に被害者が翻意し,寄付金に加えて示談金も用意しなければならないリスクもありますので,贖罪寄付を行うかどうかは,慎重に判断しなければなりません。
他に,自首,依存症治療,家族など監督者の存在のアピールなども必要になってきます。
特に,放火魔のように依存症的気質がみられる場合には,依存症治療により再犯可能性が減少していることを主張することが必要不可欠です。
また,弁護士が行為の態様・結果・動機といった基本的な部分もきちんとチェックし,当該放火行為が同種事案の中で特に悪質とまではいえないと主張できるような要素を,漏れなく拾い上げる必要もあります(お知らせ「行為責任主義」も併せてご覧ください)。
否認事件
放火の場合,捜査段階では,弁護士が頻繁に接見するなどして取調べ等の捜査状況を把握すると共に,終局処分の見通しを早期に把握することが必要不可欠です。
弁護士の見極め次第では,嫌疑不十分を狙うことも十分にあり得るところです。
被疑者自身は,黙秘権行使を原則とし,あえて積極的に供述していくときは,弁護士と相談しながら慎重に行っていく必要があります。
裁判段階では,まず弁護士が検察官証拠を吟味し,その上で網羅的な証拠開示請求を行って開示証拠を精査し,弁護士と被告人が綿密に協議しながら,検察官立証の要を崩す方策を見つけ出す必要があります。
要となる検察官証拠に対する証拠意見はすべて不同意として,証人の証言の不合理な部分を反対尋問で徹底的に弾劾したり,被告人に有利な証拠を積極的に収集・提出したり,被告人は無罪であることを弁論で強力かつ説得的に論じたりするなど,事案に応じ様々な手を打っていくことになります。
例えば,そもそも犯行現場に居合わせていないなどとして犯人性を争ったり,心神喪失や心神耗弱といった責任阻却・減少事由を主張したり,故意を争ったりすることが考えられます。
また,放火の場合,現住性・焼損・公共の危険,などといった犯罪成立要件が存在し,例えば,建造物の構造上,非現住部分に放たれた火が現住部分に燃え広がることはあり得ず,現住性は認められないので非現住建造物等放火である,などとして,法的評価を争うことも考えられるところです。
関連条文
刑法108条
放火して,現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物,汽車,電車,艦船又は鉱坑を焼損した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法109条
1 放火して,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物,艦船又は鉱坑を焼損した者は,2年以上の有期懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは,6月以上7年以下の懲役に処する。ただし,公共の危険を生じなかったときは,罰しない。
刑法110条
1 放火して,前2条に規定する物以外の物を焼損し,よって公共の危険を生じさせた者は,1年以上10年以下の懲役に処する。
2 前項の物が自己の所有に係るときは,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法111条
1 第109条第2項又は前条第2項の罪を犯し,よって第108条又は第109条第1項に規定する物に延焼させたときは,3月以上10年以下の懲役に処する。
2 前条第2項の罪を犯し,よって同条第1項に規定する物に延焼させたときは,3年以下の懲役に処する。
刑法116条
1 失火により,第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は,50万円以下の罰金に処する。
2 失火により,第109条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条に規定する物を焼損し,よって公共の危険を生じさせた者も,前項と同様とする。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条
1 地方裁判所は,次に掲げる事件については,次条又は第3条の2の決定があった場合を除き,この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は,裁判所法第26条の規定にかかわらず,裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
刑事訴訟法250条
2 時効は,人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については,次に掲げる期間を経過することによって完成する。
一 死刑に当たる罪については25年
三 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年
四 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
刑法11条
1 死刑は,刑事施設内において,絞首して執行する。
刑法12条
1 懲役は,無期及び有期とし,有期懲役は,1月以上20年以下とする。
刑法15条
罰金は,1万円以上とする。ただし,これを減軽する場合においては,1万円未満に下げることができる。